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素敵な出会い

仕事では車の移動が多くある。

そして、今日も後ろから赤色灯が迫ってきた。

これは逃れられない一つの現象、森羅万象のようなものだ。この定めに逆らうつもりは毛頭ない。これをクリアーしなくては次のステージはない、ドラゴンボールのようなものだ。およそ2ヶ月に一回のペースで定期的に現れる。確率論的に実に正しい。

然るに僕はもはやあわてることもない。僕は常に自分の免許の残りの点数と、走行速度を鑑みて走ってる由、あわてる必要はないのだ。そして、例によって赤色灯がきらめく諸兄の待つ車内の後部座席に場所を移しての押し問答・・・。決して文句を言うでもなく、声を出すこともなく淡々と運転席と助手席に座る諸兄と議論を繰り広げるのだ。

相手もさることながら決して強引な態度など微塵も見せず、否、慇懃無礼なほどに落ち着き払っている。これが楽しい・・・。相手の顔が見えないところがたまらなくスリリングでもある。まるで・・・。

わかっています。相手は国家権力、かなう術はありません・・・。下手をすれば公務執行妨害で連行される・・・。だからこそ議論を挑むのだ。僕は自分の父親達の世代のように権力に挑んだり反抗したりするなどというナイーブな感性は残念ながら持ち合わせていない。

権力は権力でそれ以上でもそれ以下でもないのだ。そう、つまりは負けるとわかっている議論をしたいのだ。僕が自身をマゾヒストだと感じる瞬間ではある。ああでもないそうでもないと、つまりは揚げ足取りの議論を吹っかけるのですが・・・、だんだん諸兄の声にトゲが、そして助手席の君からは妙な猫なで声が・・・。

いつもそうですが前方に座る諸兄達にはそれぞれの立場上の役目があるようだ。そしてそろそろ、諸兄の集中力も切れてきたよう・・・。

さあ、拇印を押して立ち去ろうとしたとき、助手席の君が一言。”運転手さん(僕)は設計士として施主に信頼させるよう構造計算をされるのですよね。”

(諸兄にとって建築の設計とは構造計算をすることであるらしい・・・、間違ってはいないがそればかりではない。まあそこは議論の範疇ではないから黙っていたが・・・。)

”自分も機動隊として、交通のルールを皆が守り、安全を守るよう信念を持ってやっている。運転手さんと同じだ。運転手さんが建て主に信頼されるように、運転手さんも我々の仕事を信じてほしい。”と。

すばらしい。それまでのとげとげしい諸兄の言葉が瞬く間に僕の心に染み入っていった。自分の仕事に信念を持っているということは素敵だ。何にも代えがたい。

今回、反則金は1万5千円成り・・・。(罰金ではなく反則金だと以前訂正された。)

つまらない映画を数本見てしまうよりよほど素敵な言葉であり時間であり、投資であった。最後に握手を求めようかと思ったが、あまりにも唐突に撃たれ、時を逸してしまった。

僕は久々に感じるすがすがしい気持ちで、法定速度で現場に向かった。