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ロンドンで出会った幅の広い廊下

数年前に竣工した住宅です。
キッチンから、スキップフロアーの上階の書斎と廊下を見ています。

廊下の幅は1600mmの幅広、各居室はこの幅広の廊下に対して大きな引き戸で連続しています。天井にはトップライトが設けられ明るい自然光に満ちあふれています。

無駄に広いかと思いきや・・・、この無駄さがとっても重要なのです。ちなみに通常の廊下の幅は広くても900mmくらいです。

この廊下は各居室(子供室と主寝室、和室)とは空間的に連続し、大きな引き戸を開放することにより家族のセミプライベートスペースとして各寝室の延長としてフレキシブルに使われています。
重要なことは各居室を閉じこもった寝るためだけのスペースから開放し、普段も色々と使えるように、それらの空間のポテンシャルを引き上げているのです。
廊下という固定観念から離れ、あえて幅広にするということだけで豊かな空間を実現できたのではと思っています。

つまりは機能は廊下だけど、使われ方は廊下だけではないということ。

今は未だ小さなお子さんの遊び場として利用されているようです。キッチンに立つと、その廊下で遊んでいる様子、そして手前の書斎で勉強する家族の姿が手に取るようにわかります。

 

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いかがでしょうか?我々がいつも追いかけている”特殊性と必然性の幸福な融合”が実現できたと思っている例の一つです。

 実はこの空間は僕のロンドン留学時代にすんでいたフラット形式の住宅をモデルにしています。僕の空間に対する根源的なイメージ、原風景です。

ロンドンではいわゆる日本のようなアパートはありません。数百年前から立っている建築を時にアパート、事務所、クリニックなどに改修して長きに渡り使われています。新築の建築などはほとんどないのです。

そして、そのアパートを数人でシェアをしながら住まうことが学生にとってはスタンダードです。僕は2年弱の間何度か引越しをしましたが、あるとき5LDKの住宅をそれぞれのベッドルームの数5人でシェアをしてすんでいました。キッチンとバスルームは共同です。住宅をシェアするほかの住人とはそれぞれ適度な距離を保つことが同居のもっとも大事なところです。

そしてそのフラットにはこのような幅広の廊下があったのです。そして上部にはトップライト・・・。
この空間によってもたらせられる、同居人との適度な距離感とコミュニケーションは、まさに空間のサイズや形によって、人と人の距離感が生み出されるということを実体験できました。
つながりながらも離れる・・・、連続と不連続・・・。
この”距離感”を住宅の中に埋め込むことに僕は関心があるのです。