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師の背中

若者と話をしながら・・・、修行時代の師の背中を思い出した。

正直な話、師を正面から見て会話した時間の数十倍の長い時間を、師の背中を見続けることに費やしてきたと思う。今でも師の後頭部の形状、つむじや癖のある毛質を克明に思い出すことができる。彼がスケッチしているのをよく背中越しに眺めていたものだ。

正面から向き合っている時は叱られているか、あきれられているかのどちらかだ。      

師は、僕が事務所を退職する際、一言だけ、真っ直ぐに・・・、そうすれば何とかなる。といって送り出してくれた。自分で事務所を始めるとすぐにその真意に気がついた。この建築界において、いかに真っ直ぐにそして正直にいることが困難であるかを・・・。そして、師がいかに世間と格闘しながらも真っ直ぐに生きようとしていたかを・・・。

当然のことだが・・・、残念ながら今の僕には、真っ直ぐに正直に行けば何とかなるということは未だよく分からない・・・。

だから、ものは試しに僕はただひたすら正直にやってゆきたいと思う。そしていつの日にか後輩に、師が僕に言ったように”真っ直ぐに正直に”と言って、世間に送り出してあげられたらと思う。