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座右の書

僕の趣味は読書である。確かにたくさんの本を読んできた。しかし、記憶に残る本というものはそういくつもない。特に、度重なる引越しで、そのつど多くの本が淘汰されてきた。そんな中、この20年にわたり片時も僕のそばを離れなかった本がいくつかある。

その一つ、原広司さんと言う建築家が著した『空間-機能から様相へ』という本がある。

内容はかなり難しいのだが、簡単に言うと・・・、

空間というものは目の前に絶対的なものとして存在するのではなく、人がその空間を経験した際、事後的にその人の意識の中に現象するという考え方。つまり、空間はその人の経験や感性、趣味などによって様々な様相を見せるという概念であり、空間というものは、その人個人個人の歴史や経験によって様々に解釈され、その様々な様相を個人個人の意識に誘発する媒体に過ぎないというものである。

確かに氏の設計した建築は、光の反射や屈折によって、あるいは季節や天候によって、様々に豊かな表情を表出する。その表情はまさに現象的である。そのようなことを西洋哲学から東洋哲学まで幅広く参照しながら縦横無尽に論じている。

きちんと理解しているとはいえないかもしれないが、この本を僕がどのように理解、時に誤解や誤読があろうが、それは僕自身の問題であり、まったく問題ではないと言う事になる。つまり僕にとってこの本は僕自身に何か考えたり、アイデアを与えてくれる単なる媒体としてのみ有効であるということだ。何と太っ腹。素晴らしい。

確か「創造とは記憶である」というのは、かの黒澤明の言葉であったかと記憶している。
つまり、人の感覚や意識はその人の記憶や経験によってのみ顕在化され、それはその人それぞれのものであり、決して単一なものにはなり得ない。だからこそ、多様性を許容する空間やアイデアは豊かなものといえるのであろう。

この本でもう一つ知ることになる概念が、ブリコラージュという概念であった。

要約すると、身の回りにある既存の技術や道具を使ったり、組み合わせることによりまったく新しい必要なものを作り出していく創造のプロセスのこと。

この概念は自分のできることの限界を示しつつ、それを乗り越える手立てと勇気を与えてくれる。

今まで何度読んだか判らないが・・・、そのたびに新しい感覚、刺激を与えてくれる素敵な本である。