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仕上げ工事に入ります。

日本の建築文化のオリジンな形式の一つに田の字型プランがあります。皆さんよくご存知の日本的なピュアなプランです。

それは、大きな平面を各辺2等分の田の字に空間を4分割し、それぞれの部屋を可変性のある襖で仕切る形式です。南側は縁側が設けられているケースがよくあります。この4分割され、襖を仕切れば寝室として個室が4つ、例えば2つの部屋をつなげて団欒のための少々大きめのスペース。また時には冠婚葬祭などの催事には全ての部屋を1つにして大きな空間としても使用できる非常に可変性に優れたフレキシブルなプランです。一昔前までは住宅は家族の冠婚葬祭、近所の寄り合いの場でもあったのです。

これは日本特有の木造による柱と梁の構造により可能になる構法です。
欧米はレンガや石による組石構造で、まづは壁に囲まれた個室の集合により1つの単位としての住宅となります。
対して日本の固有の形式は柱梁構造によるまづは大きな空間とそれを大きく柔らかく包み込む屋根が1つのアイコンになっているのではと思っています。その下の空間を適宜分割するイメージですね。
一つ屋根の下・・・という言葉で連想されるような、共同体、家族のあり方が日本人のメンタリティを大変効果的に建築形式に置換しているのだと・・・、対して欧米の建築形式である壁に囲まれた個室、個人、つまり個という概念と対比するとよりわかり易く理解できるのではと考えたりもしています。
高温多湿の日本の風土にもマッチした風通しのよい構成でもあります。建築文化にまで昇華する形式はいくつもの必然性を孕んだ、歴史と共に進化してきた総合体でもあるのだなと、いまさらながらに思います。

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現在我々が設計、監理を行っている住宅です。GRIDと命名して進めています。4分割の田の字というわけにはいきませんが、大きな平面を各辺3分割し、計9つの空間を設定、その上で各空間が引き戸により緩やかに分割もしくは連続されています。

オーナーはお客を招いたり、友人とパーティを催したり、そしてまた料理やラッピング、着付けなどの教室を主宰する大変活動的で多芸な方達です。計画では、それぞれのシーンに対してフレキシブルに対応、それでいてきちんとプライバシーを保つことが出来る住宅を共に考えました。9つのマスには吹き抜け、外部テラス、そして階段室なども含んだ立体的な構成になってます。

大変複雑な与条件でしたが、9マスの田の字プランにたどり着いたとき、一気に様々に絡まる条件がときほぐれてゆきました。廊下も一切無し、というところが特に気に入っています。

オーナーと最初にお会いしたとき、当時の住まいには旅行に訪れた仲睦まじいお二人の写真がたくさん飾られていました。場所はすべて南の島です。
残念なことに私は南の国を訪れたことがありません。そもそも国名もわからず、南の国って・・・自身のボキャブラリーの浅さにいまさらながら驚愕です。恥ずかしいです。ちなみに私が訪れた最南端は広州かバルセロナです。対して南ではありませんね・・・。

とはいえ、しかし、だからこそ妄想が広がります。私にとって南の国の建築空間は屋根です。そして天井です。大きな懐のある屋根下、天井が強く激しい降雨や日差しから我々人類の生息圏を造りだしています。

ということで、9つのマスをそれぞれ違う形の天井で覆いました。つまりは天井による群景です。ただ9つに広がる空間ではなく天井により各個室に個性と意味、そして刻刻と移り変わる時間の流れと影を刻み込む予定です。

いかがでしょうか。

オーナーのイメージと感性、そして機能性をひとつに複合化せしめんとするオーナーならではの建築になるのではと期待しています。

聞けばオーナーはマイルを貯めるという目的のために週末に海外に行くという破天荒な方達・・・、およそ僕には想像がつきません。ですが、だからこそ妄想により楽しい建築が出来るのではと期待しています。

現在、建て方も終了し、これから仕上げ工事に入ります。

楽しみにしていてください。