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誘惑する手摺壁

 前回のブログで多摩川の岸辺のカップルのピッチについて書きました。今回は続きです。
”モノや環境”と”生物の行動”の関係には何らかのつながりがあるのでは・・・、ということについて考えてみました。

アフォーダンス理論という概念があります。ギブソンという心理学者が唱えた理論です。

これは生物の行動や衝動、振るまいとモノの形や環境の相関関係についての考察で、モノの形態そのものが生物の知覚や行動を誘発したり、導いりいるする相互の関係性について書かれています。
モノだけでなくコンピューターやWEBのインターフェースのデザイン、車や家電などの使用方法なども多くはそのもの自体のカタチによって知覚や行動が導かれてゆく・・・といったことについての理論です。勉強不足で曖昧ですが、解像度を小さく(10dpi程度)するとそんな感じだったかと記憶しています。

人によって使われる建築もそのカタチによって見え方や使い方、さらには行為や振るまいの可能性が拡張できたらとても素敵な建築だと思います。 

さらにそれは常に一対一の関係ではなくより多様性を含んでいるとそれは豊かなデザインとなるのではないかと・・・、そんなことを考えています。

 

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以前、紹介させていただきましたQ1.4の工事写真です。工事は順調に進んでいます。富士山もよく見えます。

この住宅は2階LDKの3辺を大きなテラスにより囲った住宅です。テラスの手摺は目線より高めに設定し、もちろん落下防止のため、そして周辺環境から内部のプライバシーを守るための目隠し壁として検討しています。

そして、その目隠し壁は外部に向かってそっと傾けられています。

それは、内部から外部テラスを見たときのアイストップ(視線の終点)としての壁のあり方として垂直の壁よりも斜めのほうが境界面のあり方を柔らかくできるのでは、つまり囲っているような囲っていないような曖昧な感じになれば、内部空間も広がりを持つことになるのではと・・・。

それともう一つ、手摺自身に体を預けるようにもたれることができるようできれば、壁としてだけではなくもう一つ可能性が広がるのでは考えました。この建築の大きな要素である手摺が単なる垂直の壁ではつまらないでしょう。

ということで、もたれてリラックスできるベンチのような振るまいを導く手摺壁・・・そのもたれるという行為を誘惑するような色気のある壁であってほしいと考えました。

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最近、次々と建替えが進行している東急線の駅にある木製のベンチがとても素敵です。この椅子の高さ、奥行き、素材、僕にとってこれは単なるベンチではありません。今までもこのベンチの寸法ををヒントに椅子やソファ、サイドテーブルなどを設計してきました。

この椅子が僕を誘惑するように座るという行為はまさにこの形態にアフォードされているのではと感じるのです。Q1.4の斜め壁もこのベンチの角度を参照しながら検討をしています。

行為や振るまいの多様性を許容することは豊かな形態と親密な関係にあると思うのです。

ややこしい内容になってしまいましたが、
建築も単なる形ではなく”何か”を誘惑する色気を持たせなくては・・・ということです。
つまりはモノのあり方でも人のあり方でも何かを誘惑する色気は大事だな・・・という感じでしょうか。

それにしても次々新しくなる東急線の駅はそれはそれで必要なことでしょうが、なんだか寂しい気持ちになります・・・。