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デザインをしないこと・・・

デザインをしないというと職能放棄のように感じますが・・・、恣意性を排除し、わざとらしいデザインや、必要性のない形を作ったり、余計な装飾を排除する・・・、ということで解釈してください。
大事なことは形だけを作ることではなく、重力に抗いながら地表に生きるための拠り所と生きた痕跡を刻むことだと思っています。つまり建築をするということです。

美しい形や長きにわたり愛されるモノたちは、シンプルな形で必要性と機能性とダイレクトにつながっています。つまり用と美が一致しているのです。そこには無駄な形や必要以外のものは一切存在しません。

ということで、必要なことやモノや環境を必要な在り方であるがままに設えるということを考えてみました。

ヤスコーナー-s

事務所の中央には、夏季は冷水、冬季は温水が流れるラジエターパネルを設置しています。エアコンによる空調ではなく、輻射熱による室内空間の最適化がどのように体に影響するのかを試しています。
実際、エアコンを設けていないため空気が必要以上に舞い上がったりホコリが舞ったりうこともなく、夏季は冷水により表面に結露を発生させ除湿効果も高いです。(写真をよく見ると結露水が滴っていることが見えます。)
エアコンとは違う空気の在り方はやはり根本的に違うようです。

エアコンが良いとか、輻射冷暖房が良いとかではなく、我々は設計者として両方を知っておきたいという感じでしょうか・・・。
とはいえエアコンが無い!!というだけで刺激的な感じがする昨今・・・エアコンなしでパネルを設置することは肉体派原理主義者のAさんの希望によるものです。

私は、エアコンの設定温度を22度にして毛布をかぶって睡眠することが至福の喜びではあります・・・。

床は、1枚当たり1200㎜角の大きさのタイルが貼られています。一枚およそ45キログラム・・・恐ろしい重量です。タイルを張る職人さんにも当然見放され、親族を動員し手伝ってもらいながら一緒に貼りました。
一日2枚づつ・・・両親との共同作業はとても良い思い出として、手の血豆を見るたびに思い出します・・・。

とはいえ・・・そうです。建築は時間と思い出、つまり歴史の痕跡でもあるのですから・・・このタイルはとても美しく涙なしでは凝視できません。

ちなみにこのタイル、ただ大きいというだけでなくパネルの輻射熱を蓄熱し、とても良い感じの熱を持つ床となっています。

解りにくいですが・・・チネリの自転車が置いてあります。緑のフレームに紫のチューブ、ペダルとサドルは白です。

よく私と見比べながら、インテリアですか?といわれますが、私も時々通勤に使っています。
かなりの昔、モールトンの自転車に乗っていた私は度々自転車屋さんに入ってフラフラと自転車を眺め時間をつぶしていました。
ある日、ある自転車屋でチネリの自転車の色がきれいだなーと思って眺めていたら、良いタイミングでその自転車ショップのオーナーがそのチネリの自転車を指さしながら、

”チネリはオシャレ自転車だから・・・、こっちのほうが性能も走りも良いよ!

と親切に別の自転車を推薦してくれました。それがチネリ自転車と僕の出会いです。

オシャレ自転車!!、スペックよりもオシャレ自転車として認知されているなんてすごいじゃないか!!本当はイギリス車に乗り続けていたかったのですが・・・
オシャレ上等!!を信条に仕事をしている私としてはその時から自転車はチネリと心に誓っておりました。何せ僕はレーサーでもないわけで・・・。

そしてとうとう、自分のためというわけではありませんが、事務所用として自転車を買う必要が生じた昨年、晴れてチネリを目指して自転車屋さんに向かい、再会の対面をしたわけです。

しかし、残念なことに一番小さなサイズでも身長160センチ以上でなくては乗れないとのこと・・・、店員さんにも危険だからということで我々に自転車を売ることを拒否されてしまいました。
身長が圧倒的に不足しているという危険が目に見えるわけですから当然自転車を愛する店員さんにしてみれば当然の判断かと・・・、そしてその至極まっとうなアドバイスを拝聴したいと思いました。
しかし、残念ながら当然引き下がれせん。なぜならやはりそれが一番美しいと感じたからです。

最後には、この自転車にはたまにしか乗りません!!別に自転車はそこまで必要じゃないし!!という苦渋の論を繰り出すこと1時間、何とか店員さんを説き伏せ無事に入手に至りました。(私が乗るといえばよいと思うかもしれませんが・・・私自身にはとても小さすぎ不自然すぎるのです。)

当然肉体派原理主義者のAさん、自転車もシンプルにクロモリフレームに変速機なしのシングルギアです。通勤路の90%は坂道なのですが・・・それでも必要ありません。
なぜなら、ギアが付いた自転車はゴチャゴチャしていて乗り物として美しくなく・・・、また肉体の延長となる自転車として大げさすぎるからだそうです・・・。

登りは辛く・・・降りは最高!!重力を体でピュアに体感したいということでしょうか?
確かに重力が仕事相手の我々にとってはとても良い機会です。

またがることにだいぶ苦労しているようですが、運動神経は半端ではないので走り出せば問題はないそうです。それにしても必要身長より10センチ近く足りないのですから・・・。しかし、この自転車はとても美しいです。

PSパネル-s

水回りなどとの仕切りの壁は木の下地が見える状態で止まっています。
リテラルに途中でやめる・・・途中でやめたことをわかりやすいデザインとして表現しているわけではありません。決して・・・。

変化を許容する壁、歴史が刻まれる壁という感じで今後成長してほしいと思っています。

開口部は、折れ戸とすることにより、事務所でありながらも開放的な作りとしています。しかし、246号線の喧騒と汚れた空気がとても・・・。

トイレはまだ工事中です。私はパリが好きで何度か訪れています。あくまでもパリが好きなのであって、決してフランス人が・・・ということではありません。

そしてその際に定宿としていたホテルは、今にも止まりそうな手動式のエレベーターと温水が出るまで数十分かかるシャワーの付いた安宿の屋根裏部屋でした。とはいえ、しかしこの部屋からの景色はとてもよく気に入っていました。オペラ座のすぐ裏手で、シャガールのフレスコ画も見えているような”気がして”最高でした。

今ではとてもないと思いますが・・・。ということで、記憶を頼りに事務所にはその宿のトイレの便器と同じ形のものを設置しました。

もちろん、ウォシュレット無し、暖房便座など論外です。ただ座って、用を足して、流す。シンプルにそれだけです。排泄の美学と快楽に身が覚まされます。

無くてもいいかな??というような曖昧な存在を排除しようとし、シンプルさに気が付こうとしているわけですから、意味合いとしてはエアコンや自転車の変速機と同じです。ギアも洗浄便座もなければ無しで・・・少々不快なだけ、ただそれだけです。それより大事なものが見えなくなる事のほうが恐ろしい・・・という感じでしょうか。

内装工事は途中です。耐水性のある石膏ボードとベニアがパッチワークのように貼られています。カヌーを仕上げるような透明なFRPの防水塗料を施し、ベニアと石膏ボードが露出した不思議な水回りの空間とする予定です。

そして、ベニアと耐水合板の耐水性能と、透明なFRP防水の性能を検証し、いつかプローリング仕上げの浴室を作ってみたいのです。

 

トイレ-s